GHG排出量とGX-ETSの最新動向:バイオマス発電関連事業者への影響と対策
2025年8月17日
カーボンニュートラルとGX(グリーントランスフォーメーション)の潮流
近年、地球温暖化対策として カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ) の動きが世界的に加速しています。日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、経済と環境の好循環を生み出す変革、すなわち GX(グリーントランスフォーメーション) を官民で推進しています。GXの一環として発足した GXリーグ には、製造業やエネルギー業をはじめ大企業からベンチャーまで約550社が自主参加し、日本のCO₂排出量の4割以上をカバーしています。このGXリーグでは企業同士が排出削減目標を掲げ、排出量取引(GX-ETS)の試行も始まっています。つまり、日本全体で脱炭素への取り組みと新しいルール作りが進んでおり、中小企業にとっても他人事ではなくなりつつあります。
GHG排出量とは?なぜ重要なのか
GHG(ジー・エイチ・ジー) とは Greenhouse Gas の略で、「温室効果ガス」を意味します。二酸化炭素(CO₂)やメタンなど、地球の大気中で熱を閉じ込めて温室のように気温を上昇させるガスの総称です。GHG排出量とは、これら温室効果ガスをどれだけ排出したかをCO₂換算で表したものです。
気候変動問題が深刻化するなか、GHG排出量の削減は企業の重要な責務となっています。実際、GHG削減への取り組みは企業評価や価値向上にも直結するため、今や経営課題として非常に重視されています。特に木質バイオマス発電に携わる事業者にとってGHG排出量は、自社の環境貢献度を示す重要な指標です。
バイオマス発電は再生可能エネルギーとして地球温暖化対策に貢献すると期待されていますが、その恩恵を最大化するには燃料の調達から燃焼に至るまでの過程でどれだけGHGを出しているかを把握し、できる限り削減する必要があります。例えば、木材チップを遠方から輸送すれば輸送時に化石燃料を使ってCO₂を排出しますし、未乾燥の生木材は燃焼効率が低く余分な排出を招く可能性があります。こうした ライフサイクル全体 でのGHG排出量を見える化し管理することが、バイオマス事業者が持続的に事業を続ける上で欠かせない時代となっています。また、GHG排出量を適切に報告・開示することは、自治体や地域住民、取引先からの信頼にもつながります。「うちの発電所は再エネだから関係ない」と思われがちですが、再エネであってもGHG排出ゼロではありません。しっかり測定・報告する姿勢が、これからの事業継続の鍵になります。
GX-ETS(排出量取引制度)とは?中小企業にも関係あるの?
GX-ETS とは、政府が導入を進めている新たな温室効果ガス排出量取引制度のことです。
これは企業ごとに温室効果ガスの排出枠(上限)を定め、その範囲内で排出し、余った枠や不足分を企業間で売買できる仕組みです。排出枠(いわゆる排出権)は政府から無償で割り当てられ、削減努力により余剰が出ればそれを市場で売却して利益を得られます。一方、排出枠を超えてしまった企業は他社から不足分を購入する必要があります。こうした市場メカニズムによって企業のGHG削減を促すのがGX-ETSの狙いです。
GX-ETSはまず2026年度から本格導入される予定で、現在その詳細設計が進められています。対象となるのは年間の直接CO₂排出量が平均10万トンを超えるような一定規模以上の企業で、製造業やエネルギー産業など国内で約300~400社が該当すると見込まれています。したがって、初期段階では中小企業の多くは直接の参加義務対象にはならない見込みです。ただし注意したいのは、「うちは対象外だから関係ない」と安心して良いわけではない点です。大企業は自社だけでなくサプライチェーン全体での排出削減を求められており、その取引先である中小企業にもGHGデータの提供や削減協力を求めるケースが増える可能性があります。また、自社が排出削減した量をJクレジットなどの形でクレジット化し、GX-ETS市場で販売するといったビジネスチャンスも生まれてきます。将来的に制度の対象範囲が拡大すれば、中小企業も参加を義務付けられる可能性はゼロではありません。GX-ETSは「大企業だけの話」ではなく、カーボンニュートラル社会に向けた新しい市場の始まりです。中小企業にとっても、この流れを理解し自社のGHG排出量を把握・管理しておくことは、いざという時の備えになるでしょう。
2026年4月以降に木質バイオマス発電所へGHG報告義務が課される背景
実は、GX-ETSの本格開始に先駆けて 木質バイオマス発電所に対するGHG排出量の報告義務 がすでに導入されていることをご存じでしょうか。
2025年4月から、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)またはフィードインプレミアム(FIP)制度で発電を行うすべてのバイオマス発電事業者に対し、毎年GHG排出量を報告することが義務化されました。対象はFIT/FIP認定を受けている全てのバイオマス発電所で、大規模・小規模を問いません。2026年4月以降はこの義務化から1年が経過し、実際に報告提出が本格化するタイミングとなります。なぜこのような制度が導入されたかというと、前述の通りバイオマス発電によるGHG排出を発電時だけでなく燃料の調達から輸送・燃焼に至るライフサイクル全体で把握・管理することが求められるようになったためです。再エネとはいえ、例えば燃料を海外から大量輸送していては十分なCO₂削減にならない可能性があります。国としても「再生可能だからOK」ではなく、その中身の環境負荷もしっかり見える化しよう、という段階に来たのです。
報告内容 は、使った燃料の種類ごとのGHG排出原単位(いわゆる排出係数)と、発電所全体での年間GHG排出総量(トンCO₂換算)です。
例えば「○○産木材チップは何g-CO₂/MJ」「年間合計▲▲トンCO₂排出」といった形でまとめ、指定の様式(経済産業省エネルギー庁が定めるExcelまたはPDFフォーム)に記入して提出します。提出先は一般社団法人再生可能エネルギー推進機構(REPO)等が想定されています。算定方法は国が定めた公式に従います。燃料の種類ごとに経産省指定の**排出原単位(g-CO₂/MJ)**があり、それに燃料使用量(トン)と燃料の発熱量(MJ/トン)を掛け合わせて計算します。ここで重要なのが、算定対象に含まれる範囲です。GHG排出量は以下の4つの段階で評価するよう定められています:
- 燃料の採取・伐採(木材の伐採や燃料資源の採取時の排出)
- 集荷・加工(燃料を集めたりチップ化・乾燥する加工時の排出)
- 輸送(国内輸送・海外輸入を含む運搬時の排出)
- 発電所での使用(燃焼)(実際に燃料を燃やす際の排出)
各ステージごとの排出量を合計し、その燃料のライフサイクルGHG排出量とします。つまり、「どこの誰から買ったどんな燃料を、どう運んでどれだけ燃やしたか」を細かく報告する必要があるわけです。このような詳細なデータ提出が求められるのは、日本の再エネ政策が量から質へとシフトしている表れとも言えます。再エネ電気の環境価値をより厳密に評価し、将来的にはGHG排出量の少ない燃料を使う発電事業者が有利になるような制度設計(例えばFIT支援の対象見直し等)につながる可能性もあります。現に、経済産業省は2025年にFIT制度の見直しを発表し、輸入木質燃料を使うバイオマス発電を支援対象から除外する方針を示しています。この背景には、輸入燃料の長距離輸送によるGHG増加や持続可能性への懸念があります。こうした動きからも、国内のバイオマス発電事業者がGHG排出量を適切に報告・管理することの重要性がうかがえます。
GHG報告に立ちはだかる課題:複雑な計算とデータ管理の煩雑さ
新たに始まったGHG排出量報告ですが、中小のバイオマス事業者にとって頭を悩ませるのがその算定・報告作業の煩雑さです。主な課題として、以下のポイントが挙げられます。
- 必要データが多岐にわたる: 前述の通り、燃料ごとに調達先(国内産か輸入か、森林由来か建築廃材か等)、使用量、納入日、輸送手段と距離logchip.jp、燃料の発熱量や含水率、さらには森林認証の有無まで確認する必要があります。これらを網羅するには、日々の燃料受け入れ記録や伝票をきちんと整理・蓄積しておかねばなりません。**「とりあえず燃料を燃やして発電して終わり」**では済まなくなったのです。
- 手計算・手作業によるミスのリスク: GHG排出量の算定式自体はシンプルでも、対象燃料が複数種類に及ぶ場合、燃料ごとに異なる排出原単位を当てはめて計算し、合算する必要があります。Excelで自力計算しようとすると、単位換算(トン→MJ→CO₂換算)や小数点の扱いなど煩雑で、ヒューマンエラーが起きやすくなります。また、燃料の種類や調達先区分ごとに報告フォーマットへ転記する作業も手間がかかります。普段の業務に加えて年1回とはいえこうした報告業務が増えるのは、中小事業者にとって大きな負担です。
- 紙伝票中心の現場: 木質燃料の受け入れ現場では、いまだに紙の計量票(計量証明書)やバイオマス証明書でやり取りするケースが多く見られます。トラックスケールで測った重量を紙に出力し、それをファイリングして管理、請求書も紙で発行……という具合です。こうした 紙とExcelが混在 する管理では、修正や転記の履歴も残らず、伝票とデータの突合せにも時間を要します。GHG報告のために必要なデータを集めるにも、山積みの伝票をめくって数字を拾い出すようでは非効率です。現場担当者の中にはデジタル化に不慣れな方も多く、「急にGHGと言われてもどう管理していいかわからない…」という声も聞こえてきます。
このように、GHG排出量報告に対応するには 複雑な計算 と 煩雑なデータ管理 の二重のハードルが存在します。中小企業では専任の環境管理担当者を置いていない場合も多く、現場責任者の方が普段業務の合間に対応しなければならないケースもあるでしょう。では、こうした課題にどう対処すればよいのでしょうか。
「ログチップ」による解決策:紙伝票の画像からGHG排出量を自動計算
上述の課題を解決するための強力なツールの一つが、木質バイオマス燃料の伝票管理クラウドサービス「ログチップ」 です。
ログチップ(log chip) は、元バイオマス発電事業者が現場の経験を踏まえて開発した伝票管理DXツールで、紙やExcel中心だった木材チップ取引の管理をクラウド化するサービスです。現場の商流の複雑さやデジタル化の難しさを知り尽くしたうえで作られているため、現場目線で使いやすい工夫が随所になされています。
ログチップの最大の特長は、紙の伝票類を撮影するだけでデータ化し、GHG排出量を自動計算してくれる 点です。現場で受け取った紙の計量票やバイオマス証明書をスマートフォンやタブレットで写真撮影しアップロードすると、その内容が読み取られてデータベースに登録されます。紙をスマホで撮るだけで、ログチップ上でクラウド管理用のデータに変換されるイメージです。取り込んだデータはクラウド上に蓄積されるため、オフィスに戻らなくてもネット経由でどこからでも確認できます。さらに、アップロードされた伝票画像とデータ内容の自動整合性チェックも行われるため、「伝票の数値を入力ミスして帳尻が合わない」といったトラブルも防げます。
GHG排出量の自動計算機能もログチップならではの便利な機能です。燃料種別ごとに必要な項目(例えば産地区分や輸送距離など)もあらかじめ入力項目として設定されており、蓄積したデータからボタン一つで年間のGHG排出量を算出できます。国が定めた計算式・排出原単位にも対応しているため、煩雑なExcel計算と手作業の集計から解放されます。これは前述の経産省エネルギー庁指定の報告フォーマットにも対応できるよう設計されており、Excel管理でも不可能ではないものの、GHG自動計算機能付きのクラウドツールを導入すれば格段に省力化できることを体現しています。実際、ログチップのような 「バイオマス伝票管理SaaS」 を活用すれば、担当者が紙伝票と格闘していた時間を大幅に短縮でき、ヒューマンエラーの心配も減らせます。
加えて、ログチップには充実した記録管理と検索機能も備わっています。すべての伝票データは日時・担当者とともに履歴として保存され、誰がいつどの情報を登録・修正したか追跡可能です。これによりデータの透明性が確保され、万一のミス発生時も原因をすぐに突き止められます。また、伝票や計量票、証明書をデータに紐付けて保存しているため、「○月○日に○○から納入されたチップの伝票を見たい」といった場合でも、条件を入れて検索すれば関連書類とデータが瞬時に見つかります。紙ファイルをひっくり返して探す必要はもうありません。これらの機能がオールインワンで利用できるログチップは、まさに**「現場に寄り添った」**クラウドツールと言えるでしょう。
ログチップ導入のメリット:業務効率化、信頼関係維持、将来的なGX-ETS対応への布石
ログチップのようなツールを導入することで、中小のバイオマス事業者は数多くのメリットを享受できます。
最後に主なメリットを整理してみましょう。
- 業務効率の大幅向上: 紙伝票の整理やExcelでの手計算に追われていた時間が削減され、本業に専念できます。GHG報告書作成も必要なデータが自動集計されているため、チェックと提出に集中でき 計算ミスのリスクも低減 します。人的工数の削減はそのままコスト削減にもつながります。
- データ精度・透明性の向上による信頼感: ログチップ導入によりGHG排出量の「見える化」が進みます。これは単なる義務対応に留まらず、事業運営の透明性や環境への配慮を示す武器になります。例えば発電所が地元自治体や金融機関に環境への取り組みを説明する際、ログチップで管理された正確なデータがあれば説得力が増します。また、伝票管理の電子化で発電所と燃料サプライヤー間の情報共有もスムーズになり、相互の信頼関係維持に役立ちます。燃料納入業者にとっても、自社の供給する燃料由来のGHG情報をきちんと提供できれば、発電所からの信頼を得て長期的な取引関係を築けるでしょう。
- 将来的なGX-ETSや環境規制への先手対応: GHGデータを継続的に蓄積・管理しておくことは、将来の規制強化やカーボン市場への対応にも役立ちます。仮に将来GHG排出量の報告対象が拡大した場合でも、ログチップで日頃からデータを整備していれば慌てずに済みます。また、自社の排出削減努力で生み出した削減量を「見える化」しておけば、先述のJクレジット制度に申請してクレジットを取得し、カーボンマーケットで売却するといった新たな収益機会にもつながる可能性があります。GXリーグやGX-ETSで排出枠取引が本格化すれば、削減量を「価値化」できる動きがさらに進むと見られます。しっかりしたGHG管理体制を築いておくことは、自社の将来的な企業価値向上への投資とも言えるでしょう。
- 導入コストを抑えられる(IT導入補助金2025の活用)
ログチップは「IT導入補助金2025」の支援事業者に採択されています。そのため、要件を満たす事業者は、導入費用の最大2分の1(※通常枠の場合)が補助されます。初期費用の負担を軽減しながら、GHG排出量の自動計算機能や伝票管理のクラウド化といった業務効率化を実現できます。これにより、中小企業でも低コストでGX対応の基盤を整備することが可能になります。
このように、GHG排出量の報告義務化は一見「手間が増えるだけ」と思われるかもしれませんが、実は自社の業務を見直し効率化するチャンスであり、環境貢献をアピールできる好機でもあります。国のGX推進策により、カーボンニュートラル実現に向けた流れは今後ますます加速していきます。中小企業の皆さまも、この流れを前向きに捉えて自社のGX対応を進めていきましょう。その際、「ログチップ」のような頼もしいツールを活用すれば、難しい専門知識がなくても現場で簡単にGHG管理ができます。最新のデジタル技術と現場ノウハウが詰まったログチップを導入し、煩雑な作業から解放された時間を本業の発展に充ててみませんか?環境対応と業務効率化の両立を実現し、GX時代を勝ち抜く一歩を踏み出しましょう。